お姫様と若頭様。【完】



ゆーちゃんが部屋から離れた頃を
見計らって起き上がりスリッパを履く。



「私は平気で嘘つく人間だな…」



『変な気起こすなよ』


ゆーちゃんの言葉が頭の中を駆け巡る
けど、聞いていないふりをする。



本当はこういう時、
『捜さないでください』とか
『さよなら』とか書いた方がいいの?


そんなのまるで、
私を覚えていてって言ってるみたい。



だから私は、なにも言わず、
なにも書かずにここを出る。


捜さないでとかさよならなんて到底言えないけど、もし言えるなら…

『ごめんなさい。』
それしかないなと思う。


立ち上がるとやっぱりまだ少しふらっとしたけどなんとかまっすぐ立ち上がり扉に手をかける。


この先に何があるかなんて想定済みだ。


この先…私の未来。


私は峯ヶ濱を継いで、あの方と結婚して
二人で会社を大きくする。

そしてあの方との子供を産んで、
次期後継者として育てて行く。

年老いて子供に会社を継がせて、
あの方と二人、老後を過ごして…。

そしていつかは二人、同じ墓に入る。


私の意志関係なく、
私の未来は計画的に進んで行く。





「…ずっと……」


ずっとなんて、永遠なんて言葉、
本当は嫌いだった。

運命も必然も、全部嫌いだった。


私は生まれた時から峯ヶ濱で、
この先の未来なんて
生まれる前から決まっていて…。


誰かがずっと一緒にいてくれると言った
けど、誰も叶えてはくれなかった。


信じたかった。

それでも裏切られて…
信じられなくなった。



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