弟系男子が『弟』をやめた時。



そう言われて

瞬時に思い出したのはあの光景。





『まつげ、長いね』



長澤に不意をつかれて

思わず取り乱してしまった。





「~~っ!」


脳内に映像のように流れてくるそれは、

あの時の焦りとか、愛しさとか、

全ての感情を彷彿させて。



赤面するのを抑えられなかった。






「…よかったな、うん。」



にげーなー、とか遠い目をしながら

コーヒーを啜る目の前のおっさんが

今すごい腹立つ。



「何なん、おっさん。

余計なこと首突っ込むな。」




「可愛いねー、眞樹ちゃん。

おっさんも戻ってお前らと青春したいわ。」




はっはっ、とか笑いながら

頭をわしゃわしゃしてくる。


糞うぜえ。




「まー、あれだな。

俺は本当に今後が楽しみだよ。

眞樹ちゃんと長澤とか糞おもしれーじゃん。」



「馬鹿にしてんだろおっさん。」



「おっさんって言わないの。

高岡先生と呼んだら援護射撃してやるよ。


俺は現役だった頃は

キューピットって呼ばれてたんだぞ。」



キューピットとか寒い。

太眉が何似合わないこと言ってんだ。



…そう思ったけれど

誰でも頼りたくなるほどのこの状況。



『私眞樹原のこと嫌いだから』

って言われたばっかだし。


結構傷つくから、ほんと。





俺は不服だったけれどその呼び名を口にした。


「高岡せんせー…」


すると、おっさんはブッと吹き出す。


「愛されてんな、長澤。」





マジで殴りたかった。

高岡も、長澤も。



俺の気なんて知らないで。




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