キスの味
「うーんんんっ」

あまり目覚めの良くない朝、ぐーっと体を伸ばして、出る声を抑えることもせず、ぼんやりとしたままの頭で夢を反芻する。

もう、あれから三年だ。

あれは高校時代のこと、幼馴染への恋心を自覚して、そしてその恋に破れた。

振られたわけではない。自分の弱さ故に想いを告げることも出来ず、そして彼は海外へと旅立った。

その時のことだ、今夢に見た初めてのキスは。

彼が海外へ行くことを知って、空港へ向かうバスを待っている彼のもとへ走って、抑え切れなかった想いをキスとして彼に ぶつけた。

彼には全く気付いてもらえなかったこの想い、努力。

その時にしていた自分磨きは今も日課となっている。

「仕事…行かなくちゃなぁ」

バシャバシャと顔を洗って、気持ちを切り替えるために一度頬を叩く。

ふっと息を吐いて、化粧水に手を伸ばす。

いつものように化粧を済ませて、香水を振り、最後に唇用美容液をつける。

「んっ…よし、」

鏡に向かって少し微笑んで、唇に手を伸ばす。

あの時のキスの感覚は、まだ鮮明に残っている。
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