キスの味
「美嘉、今日の合コンなんだけど、」

「ごめんね、合コンはちょっと」

正直に言って、私はまだ彼のことが忘れられない。

他の人を好きになれるとも 思わないし、そんな気分でもない。

「もったいないなぁ…美嘉綺麗なのに」

ずっと続けている自分磨きは効果が出ているようで、よく肌のことを褒められたりもする。

それが嬉しいことに変わりはないけれど、なぜ続けているのか自分にもよく分からなくて、少し複雑。

彼は今頃何をしているんだろうなんて上の空で授業を聞き流して、もし…なんてことを考えて。

弱虫で臆病な自分が嫌になる。

怖くて伝えられなくて、そのことをずっと後悔してうじうじ悩んで、もしあの時こうしていればなんて今更どうしようもないことを想像して、一歩も前に進めなくて。

馬鹿みたいな自分、どんどん進み続ける世界に置いてけぼりな自分。

ふーっと吐いた溜息 が思いの外深くて、思わず口を押さえた。

あの夢を見たからだろうか、今日は調子が出ない。

マイナスにばかり沈む心に、もう一度溜息を吐きたくなった。

家に帰っても何もやる気は起こらなくて、ベッドに深く沈む。自分の体がやけに重く感じて、どんどんどんどん沈んでいくような気がした。

もう一度溜息を吐きそうになったその刹那、インターホンが軽快に音を立てる。

慌てて溜息を飲み込んで、来客が誰かも確認せず、ドアを開ける。

「美嘉、」

「…っ」
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