御主人様のお申し付け通りに
また別れた旦那からメールが入る。

「今夜、会えない?」

永田との約束。

私は永田のキスで、もう会わないと決めたの。

だから、ごめんなさい。

「今夜はごめんなさい」

と返事をすぐに返す。

その3日後も、メールが入る。

「今夜はどう?」

私はすぐにメールで返事を返す。

「今夜は調子が悪くて、ごめんなさい」

一週間後、電話が掛かってきて無視をした。

翌日になると、また携帯電話の着信音が鳴る。

さすがに続けて無視はできない。

慌てたふりして、アパートの庭先で電話に出る。

「もしもし?」

「もしもし?体調はどうなの?」

疑われる事もなく、私の心配。

「うん、こないだはごめんね。胃の調子がおかしくて寝込んでた」

「おいおい、胃薬は飲んだのか?」

「ちょっと、昼ご飯のフライものが当たったかもねって感じ。今は平気だよ」

「うん、ならいいけど。今夜、会えない?」

きた。

やっぱり、お食事のお誘いだよ。

「トシコに話したい事があってさ」

「え?何なに~っ?」

どうしよう、話したい事だなんて。

私なんかに何の話があるのかな。

「結構、大切な話なんだよね。俺はそれをどうしてもトシコに一番に伝えたくて」

なんだろう。

ちょっとだけ気になるな。

……ジャリ…ジャリ…ジャリ……

足音がして、何気に振り返ると永田が仁王立ちしていた。

ウゲッ!

とんだところを見られているような、気持ち。

「誰と電話してんだ?」

わざと聞こえるような大声で、イヤミったらしく言う。

「シッ、シッ!」

あっち行け!

「俺の敷地内で、携帯電話でくっちゃべったら近所迷惑で通報されるだろうが~」

なんだ、それ。

「ごめん、ちょっと後でかけ直す」

私は元旦那との着信を切って、永田を睨み付けてやった。
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