御主人様のお申し付け通りに
イタリアンのお店。

ピザ、パスタ、サラダバーの食べ放題。

私は、ガムシャラに食べる。

1500円分のもとは取らなきゃと食べるまくる。

元旦那は、私の食べる姿をずっと見つめていた。

「おいしいか?」

「おいしい!」

頬杖を付いて、

「たくさん食べろよ、俺のおごりだからな」

「…すいませーん」

私は笑顔でピザを食べる。

元旦那が、自分の話したい事をなかなか言えないでいる状態なのが、なんとなく私は気が付いていた。

結局、その場では私の仕事の話ばかりしていた。

帰り道の途中で、元旦那は私にさらっと言った。

「会社に離婚した事が知られたからなのかなぁ、急に独身に戻った途端に転勤だよ」

転勤?

「誰が?どこに?」

「俺だよ。4月から東京勤務だよ」

「嘘っ?」

「本当に。だから、ごめんな。もうトシコと食事会はこの先できなくなっちゃった」

……。

急に親しい友人よりも深い関係の人間が、目の前から居なくなる寂しさが、一瞬よぎる。

「そうなんだ…」

どうしよう…寂しいや。

この先、誰に甘えたらいいんだろう。

「俺とトシコは結婚なんてしないで、恋人のままでいたら、長続きしてたかもな 」

元旦那にポツリと言われて、私もうなずいた。

「トシコの性格を、俺がもっと把握して結婚の結論を出すべきだったと後悔してる。そうすれば、戸籍にバツなんてモノが付かなかったはずだから。…ごめんな」

何で、謝るの?

私が別れたいって言って、一方的に離婚したのに。

「今どき、バツなんて当たり前だよ。そんなモノで私は傷付いたりしないよ。そんなふうに言われたら、こっちが気にしちゃうよ」

「俺はいいよ、男だから。だけど、また再婚する時に何か気に触る事がおまえに合ったらと、思うとな」

「再婚だなんてしないよ。結婚事態が私にとったら人生の墓場なのに、しないしない。絶対この先しないよ」

私は断固否定した。

「じゃあ、俺はトシコと唯一結婚できた男って訳か」

「そうそう」

私は笑顔で吹き飛ばす。

「その笑顔も見れなくなるのが寂しいよ。幸せにしてやれなくて申し訳なかった」

元旦那は頭を下げた。

寂しい…って思った。

もう、甘えられないって。

今までも、どれだけでも甘えてきたのに。

遠くに行ってしまう、私から本当に離れてしまう。

わがままだった私を、嫌な顔一つしないで、いつも優しく頷いてくれていた。

離婚の時も。

なのに、幸せにしてやれなくて申し訳なかった…だなんて。
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