クレナイの歌
「俺、卵焼き砂糖派」
「そう、よかったね」
その時までは、まだ彼女も今までと変わらぬ心持ちでいられていたのだ。
「一緒」
岸辺が顔を傾ける。朱里の顔を覗きこむ体勢でさんきゅ、と軽く礼を言った。
「っ……」
朱里が慌てて視線を逸らす。
ほんの少し、眉間にシワが寄った。
これは、普段笑わない彼女の動揺を表している。
そしてそれは、普段笑わない彼の無意識な微笑みによって生まれたものだった。
この時確かに、彼女の中での岸辺という存在に小さな変化が起きたのだ。