モン・トレゾール
二年前に結婚してから、ずっとこうして一緒に暮らしてるけど。甘え下手な私の性格を熟知してるかのように、この人は私の色んなツボを押さえてくる。
現にこの箱の中身だってそうだ。
「これ、理が買ったの?」
「悪い?――好きだろ、そういうの」
「……うん、好き」
赤いリボンで包まれたラッピングを外すと、思わず顔が綻(ほころ)んでしまう。
ピンクベージュの四角い箱の真ん中にコロンと転がるのは、キラキラしたゴールドのクマのイヤホンジャック。
「こういうのって……そのぉ、男の人が一人で買って恥ずかしくない?」
「バァカ、頼んで作ってもらったんだよ」
少し照れた彼の声が、日を増すように愛しく感じる。
この人と暮らし続けられるかと一度は迷ったあの日が、今では嘘のようにこうして自然に会話が出来る。
普通の夫婦なら当たり前のことだけど、こんな風に話せるようになるまで二年もかかってしまったんだ。
それでも、私はずっと捨てきれない想いがあった。
――過去の自分に訊きたい
私が失ったものは、どのくらい大きなものだったのかと。