モン・トレゾール
*
傾けたつもりもないのに、グラスの中の酒はコポコポと勢いよく床に零れる。
――完全に飲み過ぎた
あの女がつけてきてたって気づいてたら、梨花(りか)のとこになんて行かなかったのに。
「皆川愛莉(みながわあいり)、ねぇ」
どうしもわかんねぇのが、なんであんな地味な女を社長につけてるのかってことだ。美人ってわけでもねぇし、だからって特別仕事が出来るわけでもねぇのに。
入社して3年、死にもの狂いでやっとあの部署についたんだ。なのに、後もう少しのとこで。あんな見た目も仕事能力も皆無に等しい女と同じトコに回されるなんて。
「ふん、ホントありえねぇ」
やっとアイツを見返せると思ったのに――
「……ちょっと、遼。私がいること忘れてない?あいりってどこの店の子?」
あー、失敗した。こんな女連れてくるんじゃなかった。
「さあね。んなことより、ささっと脱げよ」
「もう、ムードの欠片もないんだから」
ギャーギャーうるせぇ女だな、ったく。
しっかし、皆川愛莉か――
「あの女、邪魔だな」