モン・トレゾール

「よいしょっ」


大きな花瓶を抱えると、あまり前が見えなくなってしまう。


やっとのことで水を替えた私は、バランスを崩しながらもようやく社長室まで運ぶ。


「随分重そうだな」


目の前からハッキリとした声が聞こえるのに……か、花瓶が大きすぎて前がよく見えない。


「そういう力仕事は、男の仕事だろ?」


声は間違いなく戸田遼なのに、とてもあの男が言ってるとは思えない。


スッと腕から重みが無くなると、花瓶はいとも簡単に戸田さんの両手に預けられる。


この行動に、不気味すぎて言葉が出ない。


……昨日はあんなに凄く怒ってたのに、この人どうなってるの?


「そもそもこういう仕事は、花屋に頼めばいいだろ」


「あっ、そっか」


そう口に出してからハッとした。


そこまで思いつかなかったとは言え、今の発言は十分バカにされる要素だったからだ。
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