モン・トレゾール
いつも会社までは彼の車で移動するんだけど、昨日とかみたいに出張で彼が居ない時は父の会社の秘書が私を送迎してくれる。
別の会社の秘書が自分の会社まで自分を送り迎えするという図は、どうにも落ち着かない。
例えその秘書というのがこの人みたいに嫌味ったらしい男であろうともだ。
私も知らなかったんだけど、父と会長は親友? とかで、私が彼と出会うずっと以前からの知り合いだったようだ。
”知り合いだった”という情報は二人から直接聞いたもので、なぜ親の交友関係を深く知らなかったのかと言えば、私自身が自分の父親と絶縁関係にあったから。
父とまともに会話した記憶は、ママが生きていた頃の子供の時とここ数年の僅かなものしかない。
本当はもっと私の方から歩み寄らなきゃとは思うけど――
「何してるんだ?」
聞き慣れた声にギョッとし、思わず戸田さんと一緒に抱き締めたままの花瓶から手を放してしまう。
「しゃ、社長!?」
「おはようございます、長期出張お疲れ様でした」
淡々と挨拶をする戸田さんの横で一人焦る、私。
ど、どうしよう……なんか、朝より機嫌が悪くなってる気がする。