モン・トレゾール

―――


シックなジャズの音が店内に響くと、周りのカップル達はうっとりとお互いの顔を見つめ合う。


そんな状態で向かい合って座る相手の顔をもう一度確認すると、ガックリと肩を落としてしまった。


「こんなとこまで連れてきて話でもあるの?」


押し込まれるようにタクシーに乗せられると、戸田さんは慣れた様子でタクシーの運転手にこの店の場所を説明した。


ここで一体何をしようとしているのか、そこまではよく分からないけど。とにかく彼より早く家に帰らないと厄介な事態になりかねない。


まして、今日は反対されながらもあの服を着るのを拒否したのよ。それなのに、こうして戸田さんと一緒に居るなんてバレたら……それこそ何されるか分からないわよね?


「話なんてねぇよ」


……用がないなら帰らせて欲しい


そうは思うけど、このお店の雰囲気のせいなのか戸田さんを無視して帰ることが出来ないでいる。


それにこの人、相変わらず行動が理解出来ないけど――


気のせいかなぁ? このお店に入ってから様子がちょっと違う気がする。
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