モン・トレゾール

「……」


ほんの少しの沈黙も、私にはとても長い時間のように感じた。


軽く口を尖らせる私と、驚きのあまり言葉を失った様子の戸田さん。


やっと言えたっていう満足感に浸れるはずなのに、ここまであからさまな態度で驚かれるとやはり女としては相当落ち込んでしまう。


私達がそんなやり取りをしている間に、いつの間にかジャズクラシックの演奏は終わってしまっていた。


ワントーン暗くなった店内。


オレンジ色のライトを浴びながら細かいスパルコーンがあしらわれた薄紫色のドレスを着た女性が、あのグランドピアノのイスの前に立つ。


「……梨花」


女性の姿に気がつくと、戸田さんは確かにその名前を口にした。


その視線を追うように見た先の彼女は、既に鍵盤の上でなだらかに指を滑らせていた。


さっきまで、体の大きい黒人がサックスで演奏していた曲はしっかり耳に残っている。


落ち着いていて、それでいてアップテンポで所々ポップなとても軽快な曲だった。


それと同じ曲を、今度はピアノの音を借りてその人が演奏し始めたのだ。
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