モン・トレゾール
ドクンドクンと自分の心臓の音が収まらない。
……私、何かとても大切なことを忘れてしまってる気がする。
でも……思い出そうとしても、頭の中にもやがかかったみたいに全然思い出せない。
もしかして、思い出しちゃいけないことなの?
ううん。そんな思い出したくないことなんて、ママのことと早苗(さなえ)のこと以外ないもん。
でも、あれは不慮の事故だったんだから。
――絶対……絶対、早苗(さなえ)のせいなんかじゃない!
ぎゅっと唇を噛むと、すっかり氷が溶けたウーロン茶のグラスに口をつける。
早苗と出会ったのは入社したての時だった。
藤森早苗(ふじもりさなえ)は、最初の部署――営業部に回された私と同期入社だった。
口下手な私とは反対に、ハキハキしてて頭も切れて凄く明るい子だった。
そんな子が成績も伸びなくて全然部署の輪に溶け込めていなかった私を見て、自分から話しかけてくれた。
それから私は……ずっと早苗に甘えていたんだ。