モン・トレゾール
―――
「なんだその暑苦しい恰好は」
薄暗い駐車場に降りると、彼は怪訝そうな顔つきで私を見る。
季節は夏、確かにこんな時期にスカーフなんて巻いてるのは飛行機の中に居るキャビンアテンダントと旅行会社の窓口の女の人とかしかいないかもしれない。
だけど、このスカーフには意味がある。
「誰のせいだと思ってるのよ」
歩を緩め後ろについた私は、小さくそう呟いた。
少しくらいは私の苦労も知って欲しい。
あのダサい服を着なくなったからって好きな服を選んでいいわけではなかった。
膝上何センチだとか、胸が大きく開いた服は着るなだとか、体のラインが出るような服は買うなだとか今まで以上に制限がついている。
それだけでも限られてくるのに、今朝はこのキスマークを隠す為に持ってるスカーフの色に合うワンピースを探すのだって一苦労だったのよ。
「そういえば、親父が創立30周年パーティーとかいうのを開くらしいけど――
おまえは出なくていいから」
コツコツとお気に入りのパンプスの音に酔いしれていると、前を歩く彼が急にその足を止めた。