モン・トレゾール
まだ、起きてないわよね?
朝食を準備を済ませると、こっそり彼の眠る寝室へと戻った。
首筋に残った痕を隠すのに何度も上からコンシーラーを重ねたけど、どうしても隠しきれない。
こうなったら少しベタだけど、上からスカーフを巻くとかしかないわ。
部屋の中で静かに足を進ませると、彼のキレイな寝顔が視界に入る。
昨夜は私のせいですっかり寝るのが遅くなってしまった。
ベッドに戻っても、中々寝つけなかったけど。
もしかしたら、彼もそうだったのかも。
『無理に思い出そうとしなくていいから』
彼はそう言ってくれたけど、私はこの人との過去の全てを取り戻したい。
結婚だって、この人だったから最後にはうんって頷けたんだと思うし。
不完全なままの今の自分でも、どんどんこの人のことが好きになってるんだから。
ベッドの横に立ち膝になると、ふわふわな髪に指を通した。
それだけで、この人が、愛しい――
そんな気持ちで心がいっぱいになる。
「……好き」
こういう状況なら、こんな簡単に言葉に出せる。
そう、今の私に出来ることは――
失った記憶を取り戻して、全身でこの人を愛すことなのよ。