銀盤の国のお姫様

　ああ、難技を、軽々と決めてしまう。

　身長は百六十センチぐらいありそうで、トリプルアクセルなんてしたら、軸がぶれると言われる。
　しかし、軸が全くぶれず、高さがあって、回転も速くて、きれいなジャンプ。

　ほんの数秒の出来事なのに、この先ずっと忘れられない出来事となるだろう。

　もう、惚れ惚れして、もう、もう。

　
　惚れている暇はなかった。

　後ろ向きに助走から、左足のエッジを外側に倒し、右足のつま先をついた。
　左回りに回って、一二三、右足で着氷。
　今のはルッツジャンプ。略記はＬｚ。六種類あるジャンプの中で、二番目に難易度が高いと言われている。
　競技では三回転ルッツの基礎点は六点。

　ルッツジャンプはたまに、ジャンプの瞬間にエッジを内側に倒す選手がいる。
　そうなると、不正エッジとして出来栄え点（ＧＯＥ）から減点される。
　ちなみに、競技では、ジャンプ、スピン、ステップはあらかじめ決められた基礎点に、出来栄えに応じてプラスマイナス三点を付けた得点の積み重ねで、技術点が出る仕組みだ。
　
　しかし、姫にそんなことはなく、きれいなルッツだ。