銀盤の国のお姫様
 漆黒の髪をまとめずに、そのまま垂らした長くまっすぐな髪を。
 銀色に輝く、白いスカートの裾をなびかせながら、すぅーと滑る。

 髪も、衣装も、靴も、そして滑っている本人も気持ちよさそうに見える。

 まるで、氷に薄くバターを塗るような滑らかな滑り。

 しかもスピードがある。

 エッジ、スケート靴の刃を深く倒してカーブしても倒れない、速度が落ちない。

 まさに、理想のスケーティング、フィギュア界が目指す滑りだ。

 それを、目の前で、姫以外の人間は私一人だけがいる世界で見れる。
 これだけでも、夢のようだ。


 そこから、数字の三の字を描いてターンするスリーターンで、後ろ向きから前を向く。

 左足のエッジを外側に倒し、前方に重心をのせた同時に、右足を振り上げて、左回りに回転。
 一二三半。

 後ろ向き、右足で着氷。ジャンプは、すべて左回りに回って、後ろ向き右足で着氷する。姫を含め多くの選手がそうだ。
 ただ、一部の選手は体の利きが逆のため、今の説明とすべて逆になる。
 
 今のは、アクセルジャンプ。略記はA。六種類あるジャンプの中で、一番難易度が高いと言われている。
 三回転半だったので、トリプルアクセル、別名三回転半ジャンプ。
 競技では基礎点八.五点と定められている難技だ。

 
 
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