銀盤の国のお姫様
「これで、女子ショートプログラムを終わります。続いて、男子フリースケーティングに移ります。」

 男子のフリーに、華音有と同じコーチに師事している築木隆星が出場する。
 隆星は昨日のショートプログラムを終えて二位につけている。成長著しい、男子シングルの新星である彼を取材しないわけにはいかない。
 だが、最終滑走だから時間がある。ので、華音有に今の気持ちを聞こう。


 と思うのだが、なんだか力が出ない。

 あの結果には、少し納得がいかない。

 彼女は明るすぎて、自由奔放すぎて、たまに迷惑と感じる時もあるが、別に小まりが嫌いではない。
 足を引っ張ろうとか、不健全な考えを持とうとは思わせない子だ。

 ただ、小まりが素晴らしい演技をしたとしても、今日の華音有の演技には勝てないと思う。

 
 時には、不可解な採点が起こる。

 それが、採点競技の運命だ。


 気が付けば、私の足は動き始めていた。
 力が入らなかったはずなのに。

 心のどこかで、


――気にしてもしょうがない、明日がある。
  歩き始めよう。――

 と体中に呼びかけて、足が応じたからかもしれない。


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