彼の手
車に乗り込むと、「はいどうぞ」とカップに入った紅茶をくれた。

それは美容室近くにあるカフェの物だった。

今日、髪を切っている時、あの店の紅茶が抜群に美味しいとあたしは話していた。

覚えててくれて、わざわざテイクアウトしてくれたんだ。


「あの…迎えに来させてしまった上に紅茶までありがとうございます」

「いいよ。オレが勝手にしたことだから。ここの紅茶美味しいね。オレも買ったんだ」

そう言って、運転席脇にあるジュースホルダーを指差した。


こんな会話をした後、木崎さんは車を走らせ始めた。


「何だか不思議ですね。あたしが木崎さんの車に乗ってるなんて」

「いつもは、店員と客の立場でしか会わないからな」

「そうですね」

「今は1人の男と女として会ってる。オレはそう思ってるよ」


1人の男と女──そんな言葉に胸がドキドキした。

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