キスにスパイスを、キスをスパイスに
「……待って」


2人の距離がもうすぐゼロになるという所でハッと我に返り、彼の胸に腕を突っ張って2人の距離をとりながら訴えた。


「……は?待てない」


急にかかる待ての言葉に、彼は不機嫌を露わにしている。私から煽ったのも知っている。けれど、このままの雰囲気に流されてしまったら、明日が大変な事も知っている。


「ちょっとだけ時間ちょうだい」

「なんで今更」

「だって……今キスしちゃったら、そのまま流されちゃう。お手入れもせずに寝ちゃったら、絶対朝から後悔する」

「そんな理由で俺は拒否されたのか?1日くらい平気だろ」


私から出た言葉に彼は更に不機嫌になってしまった。


「明日の朝起きて、洋輔さんとの時間を後悔したりしたくないの。洋輔さんは私に後悔して欲しい?朝から私のテンション低くて、洋輔さんのせいだって言い続けてもいい?」


私は知っている。洋輔さんは普段は俺様気質な面があるけれど、私のこういう言葉には弱い。適当に言っているわけではなくて、本心なんだから、いいでしょ?洋輔さんが気にしてくれるようにちょっと言葉を選んだだけ。
少しでも洋輔さんの隣がふさわしくなれるように、自分を磨くことに妥協はしたくない。その1つがお肌のお手入れなの。


「……分かったよ」


案の定、彼は私の訴えを聞き入れてくれた。しぶしぶではあったけれど。


「ありがとう」


そう笑って伝え、一度着替えようと下着へと手を伸ばそうとしたけれど、パシっと洋輔さんに掴まれてしまった。


「それは要らないだろ。……これでも羽織っとけ」


私を掴んでいる手とは反対の手で、彼は私に浴衣を渡してきた。……これでもってさ、絶対に何か足りないよね。


「下着は?」

「必要ないだろ。どうせすぐに脱がされるんだしな」


彼はさらりとそんな事を言う。腕に込められた力に、浴衣以外着させてもらえないなってことを確信した。


私のわがままを聞いてもらったのだから、ここは大人しく従っておくべきだよね。そう言い聞かせ、渡された浴衣を羽織った。
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