キスにスパイスを、キスをスパイスに
部屋に戻り、私が化粧水やらを並べ始めた頃には、彼の不機嫌も少しだけ治まっている様子だった。彼も浴衣だけを羽織り、布団にごろんと横になりこちらをじっと見ている。彼の様子が気になったけれど、横目でチラチラと見るだけで気にしていないふりを貫いた。


こんな風になんでもない素振りを見せてはいるけれど、本当は私も彼と同じ気持ち。早く触れて欲しいし、早く触れたい。でも、自分に妥協もしたくない。


だからせめてと思い、せっせとスキンケアをしていく。


……よし、あとはこれだけ。最後の仕上げにリップをたっぷりと唇にのせ、くるくると指の腹でマッサージしていく。これで夜のケアは終わり。


「……何やってるんだ?」


声のしたほうへと向き直ると、横になっていたはずの洋輔さんが、むくっと起き上がり、膝立ちのままこちらに近づいてくる。


「何って……マッサージ。塗るだけより、次の日唇がぷるぷるになるの」

「へぇー、ぷるぷるね……」


私の言葉になぜか彼は眉を顰めた。何か失言でもしたかな、と不安になった。


「仕事のときもこれ塗ってるのか?」


これといって彼が指差したのは、たった今塗ったリップク。意図が掴めないまま、彼の質問に答えることにした。


「これはナイトケアだから、仕事のときは別のやつだけど?」


すると彼は難しい顔をして何かを考え始めた。


「……奈々の職場は、色は付いてて大丈夫だよな?」

「まぁ、濃すぎなければね」

「じゃあ、仕事行くときは絶対色つき使えよ。俺からの命令っていうか、俺からのお願い」


更に訳が分からなくなった。いつもならこんな風に、化粧とか身だしなみのことで彼が口を出す事はなかったのに。一体、どうしたんだろう。

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