キスにスパイスを、キスをスパイスに
「んー、一緒にお風呂は後からにするか」

「……え?」


もしかして、さっきの一緒にっていうのは冗談だった?そうだとしたら、私、恥ずかしい。それに、洋輔さんは一緒に入るのは嫌だったのかな。……なんか、悲しくなってきた。


洋輔さんの顔を見たら泣いてしまいそうな気がして、目を逸らすように下を向いて誤魔化すことにした。


――ポン、ポン


頭頂部に感じた重みと、温もり。そして、同時に深いため息が聞こえてきた。


「……洋輔…さん?」


もちろん彼しかここにはいないわけで、私の頭に乗っているのは間違いなく彼の掌。ため息の真意が知りたくて、彼の顔を確認したくて、不安から脱出したくて、顔を上げようとした……けれど、乗せられている掌に力が込められ、それは彼に阻止されてしまった。


「絶対今泣きそうな顔してるんだろ?そんな顔で下から見るのは止めろ。我慢できなくなるから。お風呂も今一緒に入ったりしたら、たぶん俺我慢できないから。だから、そんな悲しい顔するなよ……な?俺に今すぐ食べられたいっていうなら別だけど」

「……///」


ようやく彼の言いたい事と、彼の行動の理由が理解できた。それと同時に、頬がカーッと熱くなるのを感じた。


そうだった、彼はこんな人。浮かれていてすっかり忘れていた。


「……1人で入ってくるから離して」


恥ずかしさが先程より増してしまっている。耐え切れなくて、逃げ出すように彼の手を跳ね除けて浴室の方へと向かって足早に歩いた。


背後からは洋輔さんのいってらっしゃいの声と、楽しそうな笑い声が聞こえている。もちろん後ろは振り返らない……というか、こんな真っ赤な顔では振り返れない。

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