キスにスパイスを、キスをスパイスに
この部屋の温泉は岩風呂で、外の少し冷たい空気がすごく心地よかった。ただ、1人で入るには広すぎて、少しだけ寂しかった。


……やっぱり後から洋輔さんと入ろう。2人でここを満喫したい。嫌だって言われても、今日はわがまま言おう。洋輔さんは私のわがままは不本意そうな顔しながらもちゃんと聞いてくれるから。今日は、それを利用しよう。


「……よし、決めた」


いたずらを思いついた子供のように、なんだか楽しくなって、鼻歌を歌いながら入浴を済ませ、そして彼に選んでもらった浴衣に袖を通した。


彼の居る座敷へと戻ると、洋輔さんはスッと立ち上がり私と入れ変わりでお風呂へと向かった。





「よく似合ってる」


すれ違いざまに私の耳元に唇を寄せ、彼が囁いた。


――パタン


座敷と脱衣所を隔てる扉が閉められて、1人ポツンと取り残される。


「……」


お風呂上りで熱いのか、彼の言葉に身体が熱くなっているのか、とにかくものすごく熱くて堪らない。


立っていられなくなって、その場に屈みこんでしまった。洋輔さんはたまに恥ずかしい事をさらりと言ってのける。その度に私は心を乱されている気がする。
< 3 / 13 >

この作品をシェア

pagetop