キスにスパイスを、キスをスパイスに
洋輔さんがお風呂から上がった頃、夕飯の支度が出来たと連絡があった。部屋食ではなかったけれど、ちゃんと個室になっていたから周囲を気にする必要はなく楽しい食事の時間を送ることができた。


本当に個室でよかった。浴衣姿の洋輔さんは彼女の贔屓目抜きにしても、すごくカッコいい。私もいつもと違う洋輔さんに、見惚れてしまったくらいだ。食事処に向かう途中、他の女性客からも視線を集めていて、それには嫉妬したけれど。個室じゃなかったら、終始周りの視線を気にしてしまい楽しい時間が過ごせなかったかもしれない。


「……鍵」

「ごめん……えっと、あった」


ボーっと考え事をしながら歩いていたから、部屋に着いたことに気づかなかった。洋輔さんに鍵を促されて、ハッとした。慌てて私が預かっていた鍵を差し出した。




――ガチャリ


ゆっくりと扉が開く。中に入ると、いつの間にか布団が用意してあり、2組ぴったりとくっついた状態で敷かれていた。


いつも一緒の布団に寝ているのに、いつもと違う状況にやけに緊張する。どうしても意識してしまい、凝視したまま固まってしまった。


「……なんで今更緊張してるんだよ」


隣に居たはずの洋輔さんは、いつの間にか私より少し前に居て、そして私の顔を覗き込みながら声を出して笑っていた。


「……緊張なんか」


「はいはい、そういう事にしといてやるから」


クスクスとした笑いを堪えることなく、私の頭をくしゃくしゃと撫でて部屋の奥へとさっさと入っていってしまった。置いていかれた私も慌てて彼を追いかけた。
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