キスにスパイスを、キスをスパイスに
私が温泉に浸かるのと、洋輔さんが扉を開けるのは……ほぼ、同時だった。


「どうした?そんなに慌てて。今更恥ずかしがるなよ」

「だって……」


私の行動がばれていることが、更に恥ずかしかった。お湯に顔だけが見えるくらいまでしっかり浸かりながら洋輔さんを見つめた。


お風呂だからもちろん裸なわけで……申し訳程度にタオルで隠してくれているのがありがたいくらいだった。相変わらず、引き締まったいい身体しているよね。


……って、私何考えているんだろう。パッと急いで目を逸らして、くるりと向き直り彼に背を向けた。ここが温泉でよかった。火照る顔も今ならば誤魔化す事ができる。


背後から聞こえていた笑い声は、シャワーの音によって掻き消された。私が背を向けた理由も、きっと洋輔さんにはお見通しなんだろうな。こうなったら、もう開き直るしかない。




――

――――


ザバっと勢いよく洋輔さんがお湯に入ってきたため、足を伸ばして座っていた私はお湯の勢いに押されて横に倒れそうになってしまい、顔までお湯に浸かってしまった。


完全に倒れなかったのは、洋輔さんが私の腕を引っ張り自分の方に抱き寄せてくれたから。原因も、この人なんだけどね。


「悪い、大丈夫か?」

「……」

「……奈々?」


私の目の前にぴったりと触れるようにあるのは彼の胸板で、ここからでは彼の表情は見えないけれど、何も答えない私に不安そうにしているのが分かった。


洋輔さんにこんな顔をさせているのが私だと思うと……嬉しい。きっとこれは私だけの特権。


なんだか楽しくなってきて、彼の背中に腕をまわしぎゅっと抱きついた。一瞬ピクリと反応したかと思うと固まってしまった彼だけど、何も言わずそっと抱きしめ返してくれた。
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