淋しいお月様
「わ~、上手そうな料理」

静哉は電話を切ってから、ほどなくして私の部屋に来た。

セイゴさんのお陰で、部屋は片付いていたので、彼を上げることができた。

家に入るなり、キッチンのお鍋を空けて、静哉は言った。

「オマエ、料理できたっけ?」

セイゴさんが作ったものだ――とは言えず。

静哉がまじまじと私を見つめた。

私も、見つめ返す。

ああ、静哉だ。

夢にまで見た、静哉だ。

ちょっと吊り気味の目、茶色に抜いた髪の毛。

そして――激しい抱擁。

「ちょ……静哉、痛いって」

いつも、砕けるほどに彼は私を抱きしめていた。

そんなところも、変わってない。

「愛してる。ずっとほったらかしで、ごめんな」

私は静哉に抱きしめられながら、涙を流していた。

ああ、ここが私の居場所。

私は、静哉以外のひとを、知らなくていい。

セイゴさんのことなど――もう……。

けれど、“俺は淋しい”と云って背を向けた彼の姿が、目の奥にやきついて離れなかった――。
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