淋しいお月様
「ほら、街が見えるよ」

「本当、小さく見えるね」

家々が、夕暮れのセピア色のベールを被っているみたいだ。

空飛ぶ鳥は、いつもこんなアングルで世界を見ているのね。

私たち人間には、見えないパノラマ。

こうやって、特別な日にしか、お目にかかれない。

「夕陽、綺麗ね。おっきい」

空の向こうへ沈みそうなお日様。

還る時には、優しい光を放つ。

「高い所って正直苦手だけど、星や家のライトより、こういう夕暮れの風景の方が、俺は好きだな」

「そうね。なんだかノスタルジックになっちゃう」

最後に観覧車に乗ったのは、一体いつだっけ。

まだまだ、セイゴさんと出会うことも知らずに、学生の頃友だちときゃいきゃい云いながら乗ったのが最後のような気がする。

次は私、一体いつ、誰と一緒に観覧車に乗るんだろう。

セイゴさんと、私と、ウサギのぬいぐるみの2人と1匹で今は乗っているけれど。

このぬいぐるみが、いつかは本物の子どもになっているのかしら。

それは、つまり。

私とセイゴさんの、子どもと一緒に――。

なんて、ちょっと考えが突飛すぎるかな。
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