淋しいお月様
『あなたに――お見合いの話が出てるんだけど』

私は仰天した。

「おっ、お見合い!?」

『お相手はお医者さん。佐藤さんっていってね、すごく人柄のいい方なのよ。小児科専門だっていうから、星羅に子どもができても安泰だわ。楓と葵たちもなにかあったら安心だし』

楓と葵とは、お兄ちゃんの息子たちの名前だ。

「まるで楓たちのために結婚しろって云ってるようなもんじゃない。それに私、お見合いなんて興味ないし」

『お相手はお医者よ。将来安泰じゃない。それ以上の何を望むっていうの。星羅のその彼氏はどんな職業なの? 将来有望なの?』

ちょっと怒ったような言い草のお母さん。

将来有望――そんなの、解らない。

ミュージシャンなんて、掃いて捨てるほどいるし、芸能界なんて人気の浮き沈みも激しい。

「だけど、私には彼しかいないの。他のひとなんて、考えられないわ」

『また始まった。あなたの悪い癖。盲目になるのよね』

「盲目なんかじゃない。私は、ちゃんとしたひとを選んだわ」

『……お医者以上の職業に就いてるひとじゃないと、お母さんは認めませんからね』

そう言うと、お母さんはまたしばらく黙ったあと、

『……とりあえず、一回帰ってらっしゃい』

と、電話を一方的に切ってしまった。
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