淋しいお月様
柔らかく 暖かい曲だった。

そして、セイゴさんは最後の鍵盤を叩き終わると、またカメラ目線になった。

「星羅ちゃん、僕と、結婚しよう」

――どきん!

セ、セイゴさん――!

これって、テレビ越しの、プロポーズ……!?

私は放心してしまった。

途端に、私の電話が鳴った。

母親からだった。

『タクミって、お母さんでも知ってるわよ。星羅って、あんたのことなの? どういうことなの――』

妙に興奮した母親。

放心状態でうまく説明ができない私。

ピアノの前から立ち上がり、また真っ白いスタジオのソファに座るセイゴさん。

こちらも妙に興奮している局アナ。

セイゴさんは淡々と質問に答える。

星羅さんって噂の彼女ですか――。

今のはプロポーズですか――。

どうか、お幸せに――。

その後のことは、もう何も覚えていなかった。

あたまがクラクラして、現実味がなかった。

覚えているのは、部屋の窓から見える、お月様は下限の月。

夜空が、そっとウインクしているかのように見えた。

もう、淋しいお月様ではない。
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