淋しいお月様
お兄さんは、傍らの丸椅子に腰掛けた。

腕を組み、脚を組み、うなだれて座っていた。

何も話しかけてこなかった。

沈黙が、心地よかった。

昨日の今日、出会ったひとなのに、ここまでお世話になるとは……。

「天野、っていうんだね」

さっき、看護師さんが呼んだ名に気づいたみたいだ。

ふと、お兄さんが掠れた声を出した。

「はい。……名乗ってなかったですね。天野星羅っていいます」

「星羅ちゃん、か」

「はい。……お兄さんの名前は?」

「セイゴ」

「セイゴさん。あの、今日は? お仕事は?」

今日は、ええと、木曜日だったはず。

こんな昼間に、こんなところで、こんなことしてていいのだろうか。

< 64 / 302 >

この作品をシェア

pagetop