淋しいお月様
「俺は平気。自由業だから」

「自営業?」

「自由業」

「どんなことしてるんですか?」

「いいから、眠ってな」

困ったように眉を顰め、彼は私に毛布をかけ直してくれた。

私は黙って目をつぶった。

優しい、んだな……。

見ず知らずの私を病院まで連れてきてくれるなんて。

昨日だって、自分が濡れるのも気に留めずに、私に傘をさしててくれたっけ。

傍から見たら、ちょっとおかしなひとだけど、私にとっては救世主だった。

優しくて、困ったようによく笑って、それから、携帯の入ったレジ袋を私に渡してしまうという、そそっかしいところがあるセイゴさん。

いいひとだ。

弱ってるところに、優しくするだなんて、ずるい。

でも私には彼氏がいるのだ。

静哉という、歴とした、音信不通の彼氏が。

だから、セイゴさんは好きだけど、恋愛感情の好きにはならない。

私はそこまで単純じゃない。

それにしても、私の名前はセイラ、で、音信不通の彼はセイヤで、このひとはセイゴさん……。

何だか、縁のあるような名前だ。
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