Love their
そんなサトルにまた安心して食器を流水に流していく。


レイは少し疲れを感じてしまった。


そんな大した料理をしたわけでもないのに…。


洗い終えてシンク周りの水滴を布巾で拭き取っていく。


疲れているのではなかった。

気が重たかったのだ。


こうして二重の生活をするってなんて気力のいることだろう。


簡単に口から出るでまかせは意外と神経を擦り減らしているようだ。


サトルはあれで自分が気になっていたことを全て出せたのだろう。


テレビに集中しているサトルはいつも通りそのものだった。


自分の言葉にボロが出ないように気に留めながら平静を装う。


なんて疲れる作業なのだろう。


レイはシンクに両手を支えにして身体をたむけた。



はぁ…ため息をついた時に背中に温かい温もりを感じた。

「サトル…」


サトルはいつの間にかレイの背後に立ち優しく背中を包みこんだ。


「レイ…今日はありがとう」

「ん…」


サトルの気持ちが背中を通して伝わってくる。


身体を包むサトルの両手に自分の掌を重ねた。


ありがとう、なんて。
そんな風に言われても。

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