Love their
「まず、自分だ」


そんなレイの心内を察してか首を横に振りながら運転手が言う。



「どうして?相手が大切なら自分を犠牲に…というより相手を先に大切に思うんじゃないの?」


レイは運転手の頑な言い方に少しムッとしてしまった。



ずっとそう思っていた。


何よりも大切だな、と思ったらそれを一番に思いたい。


そう思う自分がとても愛おしく思っている。



そして何よりも大切な人に染まりたい。



自分を犠牲にするという感覚があるならば、それは本物じゃない、そう思っている。


それすら思うことなく相手と一緒になりたい、と思う。




「それはな…偽善だよ」


「え〜?どうして…」


互いに譲らない言い方になっていた。


偶然居合わせたタクシーのおじさんとここまで話しなくても…と心の中で思ったが話始めてしまったから、つい突っ込んでしまう。



運転手は短くなった煙草を最後に吸い込むと携帯灰皿に入れた。


気が付けばいつの間にか出勤する人たちも見かけなくなっていた。


互いの掛け合いの合間に静けさが一層に漂う。


話をしていて時間まで忘れていたようだった。
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