Love their
「まぁ、そこまで深く考えずに自分を一番に大事に思ってな」


運転手はそう言ってレイの肩を軽くポンと叩いてから腕時計をチラっと見て立ち上がった。


「ってか話終わってないし…」


「もう具合、良くなっただろ?」


ふてくされるレイに意地悪そうに運転手が笑った。



いや、それはマジで違うんですけど…。


最後までこの前の患者と同じ、と勘違いされているようだ。


レイは面倒なので敢えて否定せずにもう一度聞いた。


まわりくどく聞くのをやめた。



それなら聞きたいこと。




「そしたら、幸せになれる?」



運転手は振り返ってさりげなく笑顔になった。


そしてスラックスのポケットから綺麗にアイロンされ折りたたんだハンカチを取り出して額の汗を拭った。


「もちろん、なれるさ」



「本当に?」



「あぁ、自分で自分すら満足に大事に出来ないヤツが相手を大事に出来るか?」


「そりゃそうだけど…」



「愛することは自分を大事にすることだよ」


「……」



レイには正直いまいちピンと来ないかった。



「惚れたやつはあんたの幸せを一番に願ってるよ。あんたもそうだろ?」



そりゃ、そうだ。

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