Love their
「その人見てないから分からないけど、レイはその人の雰囲気にまいったんじゃないの?」


あ、と思い出したかのように里子は目を見開いて言った。



雰囲気。


確かに、顔の造りとか忘れかけている。


はっきり覚えているのは、

彼の声と、

長身のスタイルと、

彼の細く長い指先。


そして、ぼんやりした記憶の中で、

私に向けられた恥ずかしそうな笑顔。



何を覚えているかと聞かれれば、言えるのはそれくらいで。



だけど、彼が頭から離れない。


記憶の中の彼の形は水性絵具が溶けるように滲んだり霞んだりしているけれど、

彼を纏う雰囲気が、彼の記憶を甦らせる。



私の本能が彼を欲しているんだ。



「里子…」


「ん?」


「まいってるわ…やっぱり」

レイは冷えた缶チューハイを口にした。


冷たさも併せ持った程よい炭酸が口内に広がり、アルコールと共に身体に染み渡る。


酔いも手伝ってか爽快感を感じた。



「あ〜やっちゃったねぇ」

里子の口癖だろうか。
だけども、その顔は子に向けるような母親のようだった。
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