堕ちてくる
閉ざす
玄関のチャイムが鳴った。
彼は一目散に走り、確認もせずにドアを開けた。そこには彼女がいた。笑顔が、彼の顔からこぼれた。しかし、それはほんの一瞬だった。
―――誰だ。こいつ。
葉月の後ろには、剛田の姿があった。彼は葉月だけなら、話を聞こうと思っていたが、こんな面倒くさそうな奴が一緒とあっては話は別だ。慌ててドアを閉じようとした。
「待って。」
はじめに葉月の声が聞こえた。それから剛田の声。その声は、彼をいじめていた坂井の声に似ていた。
「失礼な奴だな。人の顔見て、扉を閉めようとするなんて。」
すかさず扉を押さえ、彼の行動を阻止した。あまりの横暴さに、彼は声をあげた。
「だ、誰なんだ。あんた。とっととこの手をどけろよ。じゃないと、警察呼ぶからな。」
剛田はニヤニヤしながら、ポケットから警察手帳を出して見せた。
「はい、ご要望の警察ですが・・・何か?」
「なっ。」
彼は言葉に詰まった。それに助け船を出すかのように、葉月が剛田をたしなめた。
「剛田さん。大人げないよ。」
いつもなら“拳ちゃん”と呼ぶところだが、さすがにそれはまずいと思ったのだろう、“剛田さん”と言った。それが、剛田にはむず痒かった。
「なんだよ、葉月。剛田さんって。」
無神経な剛田らしい答えだった。
―――こう言う時は、少し神経が細やかになってほしいわ・・・。
頭を抱えながら、そんな事を思っていると、扉の閉じる音がした。
「あっ。」
ふたりが気が付いた時には、時すでに遅しとなっていた。がっちりと閉じた扉が開く事はなかった。
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