誰もしらない世界
歩は無言のまま部屋に入り、椅子に座る。

杉浦がワイングラスとワインを用意しながら、歩に話しかける。

杉浦(お前は、一体何を隠してる。言ってみろ。)

歩は、きっと杉浦に嘘をついて何もないと言ったところでバレてしまうと思い、事の始まりから話し始める。

杉浦が歩の正面に座りながらワイングラスをゆらす。

歩(始まりは…私が始めた出逢い系サイトで斉藤と知り合いました。)

杉浦(ほぉ…)

杉浦は自分の顔の前で指と指を組み、歩のほうをじっと見つめる。

歩(実家をでて、私は姿を失踪させたまま斉藤の所でずっと生活をしてきました。初めは斉藤は、何もかも私のやりたい放題、自由にさせてくれていました…葵という稼ぎ柱がいるまでは…)

杉浦は歩をじっと見つめて話しを聞いている。

歩(だけど、最近、その葵という女は斉藤の金づるにされるのが嫌で抵抗し始めたんです。あのたち位置から抜け出すために、斉藤に少しずつ逆らうようになったんです…すると斉藤の本性が見え始めたんです…だんだん暴力が激しくなってきて…つい最近その葵という女は斉藤に殺されました。)

杉浦はまたワインを揺らしながらグラスを見つめる。

歩(私は斉藤の紹介で全てを変えたんです。顔も何もかも全て。そして、今あの店で働き始めたの。全て新しくするために…でも、斉藤に全て私の物や行動は監視されていて、稼いだ給料さえも暴力を盾に無理矢理とられてしまうの…だから…)

杉浦は歩が話すのを止めて歩に言う。

杉浦(お前の言いたいことはわかった。今日お前がここにこうして来たのも、全てを消す覚悟があるからだろ。)

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