社長に求愛されました



「あ、目が覚めた? どう、気分は」

ちえりが目を開けると、すぐに視界に綾子が入り込んできた。
ぼーっとしていたちえりだったが、綾子の着ているドレスを見て先ほどまでの事を思い出す。

「私、酔って……?」
「うん。ちょっとアルコール度数が高いやつ飲んじゃったみたいね。
ここは、式場が用意してくれた休憩室。もうすぐタクシーが来るから、それまでちょっと休んでればいいわ」
「すみません……」

綾子が休憩室と教えてくれた部屋は、会場の雰囲気そのままに、小物やらインテリアがどこか童話チックな部屋だった。
ちえりが横たわっているベッドもふわふわとしたレースの天蓋つきだし、綾子が座っているひとりかけのソファーも、赤いキルト生地が張ってあり、外側には金色の糸で蝶が刺繍してある。

その刺繍をキレイだななどと思いながらも、部屋を見渡そうとしたちえりだったが……。
すぐに気持ち悪さと胃痛が再び襲い掛かってきて、ベッドの中で小さくうずくまる。

「吐きそうだったら言うのよ」
「……はい。私、このまま死ぬんでしょうか。
胃が、経験した事ないくらいおかしいんですが」
「あれっぽっちのアルコールで死ぬわけないでしょ」

そう呆れたように笑った綾子が、その途中で顔をしかめる。


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