社長に求愛されました
付き人を面接もしないでそんなポンポン決めてしまうのか……子も子なら親も親だな。
お金持ちなんてそんなもんなんだろうか、なんて失礼な感想は置いておいて、とちえりが呆れながらため息をつく。
「私、秘書検定なんて高校の時に三級とっただけですけど」
「別に検定なんかどうだっていいだろ。おまえ要領いいしすぐ慣れる」
「それに、今だって仕事サボりがちな社長が、秘書が必要なほどスケジュールぎゅうぎゅうに働くとも思えないんですけど」
「じゃあ俺がちゃんと忙しく働くって言ったら文句言わずについてくるんだな?」
今仕事をサボりがちな事は否定せずにそんな事を言う篤紀は、なかなか引く態度を見せない。
それに対して、なんとかならないものかとちえりが不貞腐れたような顔をしていると、業を煮やした篤紀が思いきり顔をしかめた。
「なにが不満なんだよ。誰から見たっていい話だろーが」
篤紀からすれば、父親からホテルに異動しろと話が出て、付き人を連れて行ってもいいと許しが出た時、以前よりちえりが望んでいた事を叶えてやれると喜んだのに。
そして、それをちえりに言ってやれば喜ぶだろうし、そんな顔が見たいと楽しみにしていたのにこの反応だ。
感謝こそされど、こんな風に色々文句をつけられて顔をしかめられる覚えはない。
ソファーの背もたれに背中を預け腕組みまでしてムっとした顔をしている篤紀に、同じように眉間にしわを寄せたちえりが答える。