社長に求愛されました


「なんだよ、おまえだって言ってただろ。いつまでも会計事務所にいるつもりはないって」

篤紀の主張している事は事実だ。
だけどそれは、いつまでもフリーターでいるつもりはないという意味であって、就職先を用意して欲しいという意味ではない。

「あと数年フリーターしたらきちんと就職するって意味で言ったんです。
もちろん、今よりいい給料で正社員として雇ってもらえるならそれに越した事はないですけど……だからってそこまで面倒みてもらう訳にはいきません。
今だって実際の仕事よりもいい時給で働かせてもらってるのに」
「時給上げて文句言われてる社長なんて俺くらいだな、きっと」
「呑気に言ってる場合じゃないんです!
……それに、プリンスホテル・Kに就職したい人なんてたくさんいるでしょ。
そこに面接も受けていない私がひとりの枠を削らせて採用してもらうなんて……」
「問題ねぇよ。おまえが就く仕事は今まで誰かがやってた仕事でも、これから誰かを採用する予定だった仕事でもないし」
「誰もやってない仕事って……一体何の仕事ですか?」
「俺の付き人。まぁ秘書みたいなもんだな。
一ヶ月くらい前に、親父にそろそろホテルにこいって言われたんだけど。
そん時に、じゃあ付き人としてひとり連れてくって話したらいいって言ってたし。
昨日電話で一応確認取ったら、それで話通ってるから大丈夫だっつってた」

< 13 / 235 >

この作品をシェア

pagetop