社長に求愛されました


見上げている篤紀と、目を伏せているちえり。
それなのにぶつからない視線がちえりの出した答えに重なり……篤紀がゆっくりと抱き締めていた腕をゆるめる。

そして、今度はちえりの両手をそれぞれ握りしめた。

「ちえり」

まるでこっちを見ろと言うように呼ばれ、ちえりが少し迷った後篤紀に視線を移し……篤紀の真摯な瞳を戸惑いながらも逸らさずに見つめ返した。
ドキドキと胸がうるさい。

「おまえの父親の事とか、おまえ自身の事とか、それを誰かが悪く言ったりしたら俺は黙ってられない。
付き合うだとか結婚だとかは当人同士の問題だと思ってるからだ。
でも、おまえは俺が何か言い返しそうになったらきっと止めるだろ。こないだのパーティん時みたいに」

篤紀は落ち着いた口調で続ける。
ちえりの表情を見つめながら、ゆっくりと。

「おまえに止められたら俺は黙るけど、その後はやっぱりおまえが傷ついてないかとか気になる。
そんな俺を見て、おまえは申し訳なくなる。
それがずっと繰り返されて、その度ふたりの関係がギクシャクするってそういう事を言いたいんだろ?」

間を空けてからコクリと頷いたちえりの手を握る手に、篤紀がぎゅっと力を込める。
そして今まで以上に真剣なまなざしをちえりに向けた。


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