社長に求愛されました


本気で言ってるから困る、と綾子はため息をつく。
これが謙遜だったなら放ってもおくけれど、ちえりは自分の外見についていくら言っても自信を持たない。

家もゴタゴタしていたようだし、勉強にバイトにとちえりが必死だったのは綾子にも分かる。
自分の事になんて構っている時間がなかったのだから、それは勿体ないとは思うけれど仕方ない。

だけど、例え本人がそうでも周りの男が放っておかなかっただろうにと思うのだが……。
これだけピンク色の視線を送られているにも関わらず、格好やメイクがおかしいんじゃないかと心配するちえりを見て、ああそうかと悟る。

篤紀の好意には気づいているから今まで気に留めた事はなかったけれど、恐らくちえりは鈍感なのだと綾子の中で合点が行った。
篤紀の好意は他の男と比べ物にならないほど溢れ出ているし、本人も隠さず行動に移すから、それはいくらちえりが鈍感だったとしても気づくレベルだったという事だ。

篤紀ほどおおっぴらに行動に移す男はそうそういないだろうし、きっとちえりは周りの男の好意に気づく事なくここまできたのだろう。
そんな風に思いながら、綾子が周りを見渡すと、ざっと見ただけでも4、5人の招待客がちえりを意識してチラチラとこちらを見ているのが確認できた。




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