社長に求愛されました
「これじゃあ社長も機嫌悪くなるわよね。
せっかく可愛くしたのに、それを他の男に舐めるように見られちゃったら」
会場の中央付近で、白石出版社長の娘、和美に捕まっている篤紀を見ながら、綾子が呟く。
篤紀は愛想笑いを浮かべるでもなく、ぶすっとして明らかにつまらなそうにしている。
まぁいつも通り、通常運転だ。
一方の和美は、ワインレッドの派手なドレスをまとい、篤紀の腕に触れて楽しそうにひとりで何やら話しているようだが……。
よくもあそこまで全身で興味がないと叫んでいるような男相手に盛り上がれるものだと、綾子は感心する。
よほど気に入っているらしい。
「和美さん、やっぱり同級生かもしれないです。随分前だし、そんなに仲もよくなかったから記憶もあいまいで分からないですけど」
「まぁ、小学校じゃねぇ。あっちも覚えてるか微妙よね。
そんな事より、高瀬的にいいの? ああいうの。社長、めちゃくちゃ触られてるけど。セクハラよね、あれ」
「でもこれも仕事の場ですし。社長がお客さんとってこないと事務所が潤わないって綾子さんもよく言ってるじゃないですか」
「まぁそうだけど……。でも、好きな人があんな事になってたらいくら仕事でも割り切れなくない?」
顔をしかめて聞く綾子に、ちえりは困り顔で微笑んで……目を伏せた。