社長に求愛されました
「……それはないわね。高瀬の変化に気づかないハズがないわ」
「私もそう思います。社長は私の事、よく見ててくれるから、演技で大丈夫って笑ってもすぐ気づくと思うんです。
だから私は、例え目の前で誰かが私との事を悪く言っていても、社長がそれに対して傷ついたり気を使ってくれたりしていても、それでも社長と一緒にいたいんだからって……。
だから、社長が何言われてもいいんだって、そういうわがままを貫き通す覚悟がなければ、社長の気持ちに応えちゃダメなんです」
「でも……そんな覚悟、私にはできません」と最後にぽつりと漏らしたちえりに、綾子がきゅっと口を結ぶ。
ちえりの気持ちは分かっているつもりだった。
確かにちえりは、篤紀が自分のために犠牲になっているのを見て何も感じないほどに心を割り切れる人間じゃない。
むしろ、人の気持ちを考えすぎるくらいなのだから、本人も言うように、篤紀の隣でずっとなんでもない振りをして笑っているのは無理だろうと、綾子でも分かった。
「社長が私のせいで何か言われたり、私を庇って相手との関係を悪くしたり……そんなの見て呑気に笑ってわがままを通す自信なんか、私にはありません。
もし社長の気持ちに応えたって、きっと気を遣いあうだけです」
はっきりとそう言ったちえりが、目を伏せたまま続ける。