社長に求愛されました


綾子からすれば、ふたりの関係はもどかしい以外の何物でもない。
どう見たって両思い、相思相愛なのに……。いくら立場の差があったとしてもそんなの気持ちの大きさでカバーできるだろうと、そんな風に思う。
それに相手はあの篤紀なのだから、気持ちの大きさうんぬんの話だったら何の問題もない。

綾子にしたら、それはちえりだって身を持って分かっているハズなのにあんなに想われていながら何をそんなに不安に思うのだろうと不思議なほどだった。

「家の事とか気になるかもしれないけど、そんなの社長がどうにでもしてくれるわよ。
ちゃんと守ってくれ……」
「だから……簡単に言えないんです。ボロボロになっても守ってくれようとするのが分かるから」

綾子が黙ると、視線を合わせたちえりが微笑む。
なんとか微笑んでいる、そんな感じの表情だった。

「社長はきっと私の事守って大切にしてくれる。それは分かってるんです。十分すぎるくらいに。
ただ……だからこそ、私が覚悟を決めないで社長と向き合う事はできないんです」
「覚悟……?」
「私のせいで社長がどんな目に遭っても、それでもなんでもない顔して隣に図々しく居座る覚悟です。
私が罪悪感を感じてるって気づいたら、その度に社長はきっと自分を責めるから。
綾子さんは……私がなんでもないって嘘ついて笑ってるのを、社長が気づかないと思いますか?」


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