社長に求愛されました


そこまで考えていたちえりに驚きながらも、綾子の胸が静かに締め付けられる。

――曇りのない幸せな未来が、社長には似合うから。
その言葉が、まるでちえりが自分の事を曇りと言ったように思えたからだ。

そんなに考えるほど篤紀を想っているのに、どうして……。
親の事なんて関係ない。そう言って励ましたかったが、篤紀の家柄を考えると簡単にそう言う事もできずにちえりを励ます言葉が見つからない。

それでもやっぱりこのまま話を終わらせるのが嫌な綾子が口を開いた時。
「高瀬さん?」と、第三者の声が割り込んできた。

ちえりと綾子が視線を向けると、そこにはワインレッドのドレスに身を包んだ和美が立っていた。
胸下の長さで切りそろえられている髪は黒。
切れ長な瞳にすっと通った鼻筋は、アジアンビューティーという言葉がよく似合っていた。

「小学校の頃、確か一緒だったわよね? 覚えてる?」

和美の言葉に、ちえりは頷いて微笑む。

「前、黒崎さんとうちの会社に来たのも高瀬さんよね?」
「あ、うん。ごめんなさい、あの時は仕事に必死で気づかなくて……」
「ううん。気にしないで。私も黒崎さんと高瀬さんが帰ってからもしかしてって思ったの。
だから、今日会えてよかったわ」



< 77 / 235 >

この作品をシェア

pagetop