社長に求愛されました
「でも高瀬さん、今何してるの? バイトって事は大学生?」
「ううん。フリーターって言えばいいのかな。大学は行ってないの」
「あ、そうなんだ……。そういえば、確か高瀬さんのところ、お母さんだけだったものね。
元気?」
ちえりは、曖昧に微笑むだけで、その問いには答えようとはしなかった。
おめでたい席でする話題ではないと判断したからだ。
それに、久しぶりの再会で軽々しく話す事でもない。
「お父さん、小学校の頃に急に失踪しちゃったのよね、確か」
「……うん。そういえば、黒崎社長は? さっきまで一緒に話してたよね?」
触れて欲しくないところにズカズカ入り込んでくる和美に、ちえりが話題を変えようと聞くと、和美はにっこりと笑って答える。
「今、お手洗い行くって行ったところよ」
「そう」
「でも高瀬さんはいいなぁ。黒崎さんとずっと同じ事務所で働けてるんでしょ?
しかも、この間の様子見ると営業先回るのだって一緒みたいじゃない。
随分気に入られてるのね」
「別にそんなんじゃないけど……。勉強のうちだと思って連れて行ってくれるだけだから」