蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


『黙って出て行くこと、許してください』


『さようなら』


もう一度、その文面を目で追う。


疑いようもなかった。


藍は出て行ったのだ、自分の意志で。


「……理由くらい、書いていけよ」


――こんなんで、はいそうですかって納得出来るはず、ないだろうが?


嫌いになったでも、好きな男が出来たでも何でもいい。


失踪の理由が書かれていたなら、たぶん拓郎は藍を探すことはしない。


だが、こんな理由の『り』の字も書かれていない、短い書き置きだけでは納得がいかない。


それに、胸の奥の言いようのない不安感は、消えるどころかますます大きくなっていく。


何か、ある。


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