蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
年が違いすぎるとか、家出中だとか、お互いのことを何も知らないとか、自分の気持ちに気付きながらも、うだうだと悩んでいたのがバカらしくなってしまったのだ。
好きと思ったから、好きという。キスしたいと思ったから、キスしたいと言う。
シンプルだが、難しいこと。
それを易々と言えてしまえるのは、やはり藍の若さの特権か。
はたまたぶっ飛んだ予測不可能な思考回路の賜か。
「まったく。このお嬢さんはビックリ箱みたいだな」
愉快で堪らないと言うような拓郎のセリフに、藍が心配げに瞳を揺らした。
「これじゃ言うセリフが反対だよ」
チュッ。
と拓郎は、藍を抱き寄せ、おでこにキスを落とした。
藍は何が起こったのか理解できずに、拓郎の顔にじっと見入ってしまう。
少し照れたような、それでも真剣な拓郎の眼差しが、藍の姿を映していた。
「白状します。俺もずっと好きでした、だからその……キスしてもいいでしょうか?」
かなり棒読み状態だったが、まさか、自分がこんなセリフを吐く日が来るとは、夢にも思わなかった拓郎である。
それを言わしめてしまうのが、恋と言うヤツなのかもしれない。
頬を朱に染めた藍が、コクンと頷く。
フワリ、フワリと、静かに淡雪が舞い散落ちる。
バレンタインの夜。
思いが通じ合って初めて触れた互いの唇は、ただ温かかった――。